ペーター・ワーグナーPeter Wagnerドイツ・バーデン地方の注目の若手生産者ドイツの火山性土壌といえば、ドイツ最南端バーデン地方のカイザーシュトゥールが筆頭にあがります。このカイザーシュトゥールにあるオーバーロートワイル村で唯一ビオディナミの若手生産者がペーター・ワーグナーです。彼はガイゼンハイムで醸造学を学んだ後、ソノマのロシアン・リヴァー・ヴァレーやニュージーランドのヴィッラ・マリアなどで経験を積み、最終的に、バーデンの大御所であるフランツ・ケラーで働きながら、自分のワイン造りに着手します。実践を学ぶ上で彼が新世界を選んだのは、新世界の多くのワイナリーが何もないところからワイナリーを設立するため、ワイン畑の仕立て方やワイナリーの設計、経営などについてより実践的かつ詳細に学べると考えたからだそうです。その上、新世界のワイナリーの多くはフランスを模範としているため、実際にフランスにいるよりも多くフランスのワイン造りについて学ぶことができたといいます。まだワインを造り初めて数年という彼のワインは既に入手困難になり始めており、多くを購入できないのは残念ですが、彼の今後から目が離せません。 気候変動に柔軟に対応したタイミングでの収穫カイザーシュトゥール一帯には比較的若い火山岩土壌が広がっており、山岳地帯が始まるシュヴァルツワルトからは10km以上離れているため、雨はあまり降りません。また、北から南に長く伸びる山側の生産地より乾燥しているためブドウが良く熟します。数十年前に気候がより冷涼だった時代には、これがカイザーシュトゥールの長所でしたが、気候変動で気温が上昇している中、生産者には柔軟な対応が求められています。カイザーシュトゥールにはもともと協同組合がワインを造る伝統があり、ペーター氏曰く、大きな傾向として協同組合が造るワインは過熟気味で、果実味重視のワインが多く、この土地の良さを伝えられていない。と語っています。そんな中、ペーター氏が特に重視しているのは収穫のタイミングです。ブドウの酸味をしっかり確保しながらも果実も果梗も十分な熟度に達しているタイミングを見計っています。温暖化で気温が上がり、カイザーシュトゥールはドイツ国内で最も暑い地域の一つとなりましたが、その逆境を逆手に取れば秀逸なワインができることを彼は証明しています。 「耕地整理」なされる以前から所有する微生物が表土に存在する畑カイザーシュトゥールの風光明媚なテラス状畑はこの地域のシンボルにもなっています。この風景は、農業の生産性を向上させるために導入された「耕地整理」の産物です。効率性という観点からは成功した施策でしたが、生態系には破壊的な影響を与えました。オーバーロートワイル村の土壌の70%はレス土壌から成ります。レス土壌は保水性に長けており、石灰が豊富で肥えた土壌ですが、「フムス」と呼ばれる微生物のコロニーが表土に存在します。耕地整理では、土を掘り返し、微生物が多く活動する表土を地中深くに埋めてしまったため、耕地整理された土地は一瞬にして不毛な土地に様変わりしてしまいました。1cmのフムスが形成されるのには約10年かかり、失われた表土は30cmはあり、元の状態を取り戻すまで長く時間を要する必要があります。ペーター氏が所有する畑は一部を除き、耕地整理がなされる前の畑です。彼が新しい区画を購入する際は、土壌が大きく傷付けられていないことを重視しています。シュペートブルグンダーに関して、ペーター氏は主にドイツのクローンを使用しています。ドイツのクローンは往々にして批判的に見られますが、そのポテンシャルを十分に引き出して偉大なワインを造ることは可能だと考えます。フランスのクローンでしか最上のピノ・ノワールを造ることができないと確信していたマスター・オブ・ワインのコンスタンティン・バウム氏は彼のセラーで単一畑のワインを試飲した際、15年来信じてきたことが崩れ去り、しばらく樽の前で佇んでしまったそうです。しかしながら、ドイツのクローンはどうしても不安定な要素があるため、今後はフランスのクローンも導入していくつもりだと話します。 |
ペーター・ワーグナー Peter Wagner
絞り込み