ショップ店長の名取です!
2025年2月下旬~3月上旬にかけて、ニュージーランドのワイナリーを訪問してきました!南半球ということで、雪の降る真冬の京都を発ち、まぶしい太陽と爽やかな風の吹く真夏の現地に降り立った時のギャップに最初は戸惑いましたが、雄大な自然を目の前にして言葉を失うシーンが多かったのも強く記憶に残っています。
今回訪問したのは南島のみ。マールボロ、セントラルオタゴ、ワインパラなどの銘醸地のトップ生産者に直接会って話を伺うことができました。特に、海外で活躍する日本人生産者のワインが、ニュージーランドのトップ生産者のワインに肉薄している様に感動する日々を過ごしてきました!
■第1回 キムラ・セラーズ (マールボロ)
2月25日午前、気持ちの良い晴天の空の下、キムラ・セラーズを訪問してきました。澄み切ってどこまでも広がる青空と、青々としていながら深みのあるブドウの葉や芝の色のコントラストが非常に美しく印象的です。この前日、ご自宅のディナーでもてなしていただいたばかりというのに、この日も朝から笑顔で出迎えていただきました。


京都の店舗に来店された時のスーツ姿の凛々しさとは異なり、カジュアルな装いですが、木村さんの実直さは変わらず素敵です。
この季節はスパークリングに使用する品種の収穫時期。木村さんはまだ生産する気はないとのこと。残念。
●キムラ・セラーズとは
木村さんはキャピタルホテル東急在職時代、ワインスクールに通ったことでボルドーワイナリーツアーに参加。サンテミリオンのシュバル・ブランに感動してワイン造りを決意。2003年にホテル退職後、ニュージーランドでワイン醸造・ブドウ栽培を一年間習得し、卒業後もそのままニュージーランドに残り、ホークスベイのNatarawa wines、Clos Henriにて約一年半葡萄栽培の仕事に参加。2007年から世界的に評価の高いヴィラマリアに社員として勤務。2009年に彼はニュージーランドにご家族と共に永住することを決意し、現地でキムラ・セラーズを立ち上げました。
到着して早速畑をご案内いただきました。土がふかふか!



●畑について
画面では伝わり切らない畝間のふかふかな感触は、大根と土中の微生物の作用によるもの。大根を植えることでもカバークロップとしての役割が果たされ、湿度を維持し、微生物の働きにより、土が固まらないようにしてくれています。決してビオ認証だけなどの意識ではなく、土地の個性に合わせてロジカルに栽培を行っています。
芝が伸びやすいので、合計0.8haある自社畑は自分たちで芝刈りを行っており、その他に最小限の堆肥の使用、トラクターで鋤き入れも行っています。
収穫前のソーヴィニョン・ブランのブドウを実際に見ることができました。



日照に当たっている側は果皮の色が濃くやや黒い色も見て取れるほどで熟度の良さがうかがえます。逆に日が当たっていない側は緑を含んだイエローで、フレッシュさが伺えます。『マールボロらしさとは、ジューシーな果実味とフルーツの風味がグラスの中で調和し、溌溂としていて若くから楽しむことができる』という木村さんの明解な説明もあり、ここにニュージーランドの一つのスタイルを垣間見ることができ、非常に良い経験となりました。
このブドウ一房をプレスするとしても、フレッシュさと完熟さという複雑さをワインへ表現することができるのです。大きなワイナリーでは発酵後にブレンドする作業がありますが、小規模でクオリティを追求する木村さんと、規模間の大きい大手との差がここに縮図として表れているといっても過言ではありません。
収穫前は毎日畑に糖度計を持参しチェックしてブドウをケアしています。2025ヴィンテージは、この時点までは豊作!糖度21度くらいの基準値になるまでに、4月初旬までかかるとのこと。
マールボロにおけるソーヴィニョン・ブランという品種は、樹勢が強く、枝が伸び、また葉を茂らせ、実もつきやすいので、日照量を得て風通しなどのケアをしてブドウが健康であれば収穫量を気にしなくて良いと、木村さんは語ります。実際に畑の中もブレナムの街の中も常にかぜが吹いており、この風が病害をふせいでくれる。
そのため、仕立てに関しては、スコットヘンリーを外に出す方法で行い、葉のカットを効率的に行い、風通しを良くすることとボルドー液の散布によってカビを防ぎ、また光合成も促しています。手間と労力を惜しまず、クオリティあるブドウを追求。実際、気候によるダメージの少ないシンプルなヴィンテージであれば、良いブドウを多く得ることができ、言い換えれば、どれだけリスク回避して、美味しいものを作れるかということを考えやすいということ。
●スコットヘンリーとは?
1970年にオレゴンのブドウ栽培家であるヘンリー・スコットによって開発された仕立て方法。冷涼気候の栽培地において、ブドウ品質と収量の両方を向上させることを目的とした仕立て。4本の枝をワイヤーに沿って誘引し、上部の杖は上向きに、下部の杖は下向きに落とし、樹勢を制御する方法。これにより、ブドウはより多くの太陽にさらされ、よりよく熟すことが可能。仕立てには多くの労力と費用がかかる。
元来、ニュージーランドでは多くの土地でVSP仕立てが一般的でしたが、近年ネルソンやマールボロなどで試験的に導入され、一貫して30%以上高い収量、一般的に早い成熟、房腐れの減少、葉の除去の必要性が少なくなり、生産性を高めることが実現。ただし霜によるダメージのデメリットも。
土壌の主たる成分はシルトローム。比較的肥沃で標高10メートルということもあり、また木村さんの土地は保湿力に優れているという。
ただ土地の力だけでなく、前述のようにカバークロップを植えることでバランスよく生態系を保ち、オーガニックは雑草といかに共存することで行っている。それゆえ労力もかかるが、価値がある。
収穫に関しては、機械で行っています。手摘みの方が良いという印象がありますが、実験してみたところ、機械収穫でもクオリティが変わらなかったので、以降実施。最近は性能も向上し、生産性が高まるのと、スキンコンタクトが自動でできること、ソーヴィニョン・ブランのキャラクターであるチオール成分の3MHをより多く得ることができることがメリット。
●チームについて
木村さん曰く、以前は自分たちで全て行ったほうがコントロールすることができると考えていたが、頼った方が良い仕事ができることが多いことが分かり、その道の専門家に任せる、頼る勇気が身に付いた、という。キムラ・セラーズは木村滋久さんと美恵子さん、息子さんとニコちゃん、そして専門家やエンドユーザーへ渡す我々ワイングロッサリーを含めてチームキムラ!土や日照、風から樹、樹からブドウ、ブドウからワイン、ワインから我々、我々からお客様へ。
●テイスティング
・SB ホームブロック 2024
2018年念願の自社畑を購入して生まれた作品。通常SBにはハーバルな印象が感じられることが多いが、それはブドウの未熟さからくるとのこと。この作品にはここちよいハーヴ感はあるものの、全体的には熟した柑橘系フルーツが支配的で、フレッシュかつしなやかな酸味が全体を引き締めている。また写真のブドウが表現しているように、新鮮さと熟度の絶妙なバランスが感じられる。ニューワールドでは一般的に破砕の後so2入れるとフルーツ感が出るので木村さんも行っている。また、収穫後にスキンコンタクト行い、違ったタイプの酵母を使い分けることで複雑で厚みのあるワインに仕上がっています。。まさにご夫婦の情熱が生み出した1本。
・ソーヴィニョン・ブラン ホームブロック 2019
熟したグレープルーツや白桃、黄桃など、とれたてのハチミツ。酸味は良くなじんでいて、余韻も長い。シンプルなSBではなく、トロっとした触感や厚みが感じられる。木村さんが飲み頃と判断した、特別なバックヴィンテージを出していただきました!
・ワインメーカーズブレンド 2023
セパージュは、リースリング40%、ゲヴュルツトラミネール40%、ピノ・グリ20%。
仲間たちで作ったワインという意味でのネーミング。アロマティックだけどクリーン。アルザス品種なのでアルザスボトルに瓶詰。ボトル抜栓後、温度で品種の表現が変化する。キリっと冷やすとリースリング、温度が上がるとゲヴュルツ。、様々な表情があるので、様々なシーンで飲んでほしいという1本。和食にも合わせやすい。タイ料理などのアジアンフードとも合わせられる。
・ピノ・ノワール 2023
オーク10ヶ月(新樽10%)熟成。
鮮やかなルビーレッド。もぎたてのラズベリーや熟したクランベリー。バラ、ボタン、シナモン。色調的には落ち着いている。口に含むと全体として香りに感じられたようなフルーツが詰まついて、充実した印象。クラシックさとモダンさがバランスよく備わっている¥。10年は長期熟成させたい。チョコと合わせると驚くほど合う!
畑に出ている木村さんからは、土地への誠実さや実直さが、言葉だけではなく適熟前のブドウを見つめる表情や掘り起こした土に触れる行動などから非常に強く伝わってきました。
良いワインは良いブドウから、という言葉を思い出すほどに、この土地における木村さんならではのスタイルを確立させていることに感銘しました。また、NZでの生活や自然との共存、ワイン造りの過酷さもあるなかでそれをアップデートしながら継続することにどれだけの努力と思いを馳せているか、想像もつかないほどなのだと感じた訪問となりました。


★ワインアフタートーク
畑への訪問前日、木村さんのご自宅でのディナーにお招きいただきました。まだ陽がまぶしい夕方にブレナムの町から車で移動。明るい夕日にそまったブドウ畑で奥様に出向かえていただき、最初はお庭のテラスにてピノ・ロゼ2014で乾杯!



10年経っているとは思えないフルーツ感は新鮮なイチゴとも良く合い、一方で酸味やスパイス感が全体として調和している様は10年の熟成による統一感がなせる業でした。

クランキーゴートというメーカーのシェーヴルと、奥様お手製のムール貝のワイン蒸し、テラスのピザ窯で仕込んだ木村さんの得意料理であるサーモンのローストをご馳走になりました。それぞれソーヴィニョンやピノにとても合いました!





日本時代から自社畑を手掛けるまでなどのこれまでの人生のことを話していただき、またこれからの自身のワイン造りや、マールボロやニュージーランドのワイン産業をどうしていくかなど広いスケールの話もしていただきました。特に畑へのアプローチにおいては、現地でしか伝わらないことが多く、今回の訪問を経て、この記事を読んでいただき、木村さんの情熱が、ワイングロッサリーを通して、より良い形でお客様へと伝えられるようにしていきたいと思います。
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